人生に必要なもの

 沖縄の小さな村に移り住んで1年、ものすごくつらかったことがある。
 それは図書館がないこと。
 ところが4月に職場の友人である秘書さんが、職場から在職証明を出してもらえる事を教えてもらった。
 職場はこの村と隣の市と2カ所に建物があるため、この2つの住所を記載してもらえるとの事。
 早速在職証明をもらって、隣街の図書カードを作った。
 それ以来、私の生活はがらりと変わった。
 渡米前の生活に戻ったわけだけれど、具体的には完全な家っ子になった。
 今までなかなか読みたくても手が出せなかった本が、次々と読める幸せ。
 内容が本当に自分好みがどうかわからないけど興味がある本だって軽い気持ちで手に取れる。
 図書カードを手に入れて以来、毎週日曜日の図書館通いが楽しみで仕方が無い。
 私の人生には本当に図書館が必要なのだな。

 
 隣街はつい5−6年ほど前に3つの街が合併したため、3つの図書館がある。
 私が主に利用するのはちょっと離れた中央館と、近くの分館の2つ。
 この近くの分館に、私の片思いの同志と思っている人がいる。
 初めて彼を見たのは2ヶ月前。
 雨の日に屋根だけある駐車スペースに車を止めて、
 4つの窓を全開にして運転席側の後部ドアを開け放し、
 いすを倒して寝転んで本を読んでいた。
 それ以来日曜日に分館へ行くと、毎回必ず同じスタイルで本を読んでいる。
 図書館内ではなく、絶対に車の中で、同じスタイルで読んでいる。
 たぶん肉体労働をしているような50-60代くらいのおじさんだ。
 毎度毎度、本当に気持ち良さそうに、でも真剣に、おそらく今日借りたのであろう本を読んでいる。
 彼を見るたび、心の中で握手を求めたくなる。