六の宮の姫君

 北村薫の「私と円紫師匠」シリーズの4作目(だったと思う)。出版社のアルバイトを始めた「私」が文壇の長老から、芥川龍之介の王朝物の短編「六の宮の姫君」についての「あれは玉突きだね。…いや、というよりはキャッチボールだ」という謎めいた発言を耳にする。その発言の真意は何なのか、キャッチボールの相手とはいったい誰のことなのか、ということを探って行くミステリ。謎解きには芥川と交流のあった作家たちの小説や書簡集などが使われる。結論から言うとキャッチボールの相手とは菊池寛なのだが、この小説に書かれる菊池像と芥川像には非常に深みがあり、さらに、2人の深い友情には何度読んでも泣かされてしまう。もちろんこれはあくまで北村薫の小説だからフィクションであることにかわりはないが、毎年芥川賞直木賞の文字を目にすると菊池と芥川のことを思い出すようになった。ずいぶん昔から何度か繰り返して読んで来た小説だが、歳を取るごとに芥川の心情がよくわかるようになりちょっと苦しくなる。賢すぎるのは不幸だなーと思う。私は自然科学を勉強して来て思うが、サイエンティストにも紫の雲は見えないだろう。

六の宮の姫君 (創元推理文庫)

六の宮の姫君 (創元推理文庫)